アナログメーター(電気指示計器)は、電流や電圧などの電気的測定値を物理的に表示する装置です。これらの計器には主にピボット(Pivot)方式とトートバンド(Taut Band)方式の2つの基本的なメカニズムがあり、それぞれが特定のアプリケーションで優れた性能を発揮します。この記事では、これらの方式と、それらを支える重要な構成部品について掘り下げていきたいと思います。
■ ピボット方式
・ピボット(Pivot)方式とは
ピボット方式は計器の指針を動かすために用いられる一般的なメカニズムの一つです。この方式では、指針がピボット(先端が尖った極細の針形状の軸)の周りで自由に回転できるように設計されています。ピボット方式の特徴は、その単純さと信頼性にあり、特に可動コイル型メーターや可動鉄片型メーターなど、さまざまなアナログメーター(電気指示計器)で広く採用されています。
ピボット方式のアナログメーターでは、計測したい電気信号(電流や電圧)がコイルに流れます。このコイルが磁場内に配置されており、電流が流れることで電磁力が発生します。この力は、ピボットを中心としたコイル(または鉄片)の回転運動を引き起こし、それが直接指針を動かすことで測定値を指示します。
・ピボット方式のメリットとデメリット
ピボット方式のアナログメーターは指針の動きが非常に滑らかであり、小さな電流変化も正確に検出できます。これにより、高い精度を実現できるといったメリットがあります。また、現在産業用途を中心に社会インフラを支えるアナログメーターの多くはピボット方式となっており、後述のトートバンド方式と比較して、製品の市場シェア・規模(使用数)の観点から、価格面での優位性がピボットにはあります。
一方、デメリットとしては、ピボット周りの回転運動に依存しているため、機械的な制約や限界があります。例えば、過剰な振動や衝撃があると、ピボットの摩擦が増える可能性があります。この摩擦の影響があるために、微小な電流や電圧の変化も敏感に計測するような高感度機種には不向きな方式となります。また、メーターの向きによっては、重力が指針の位置に影響を及ぼすことがあり、これが測定精度に影響を与える可能性があります。また、後述する重要構成部品は供給できるサプライヤーが世界的に見ても限られており、この点はリスクとなります。
・ピボット方式のアナログメーターを支える重要構成部品
【 ピボット】
ピボット方式のアナログメーター(電気指示計器)の肝となる最重要部品です。SWP-A(ピアノ線)・タングステンなどの特殊鋼を加工した極細の針形状の軸になります。ピボットの先端は尖った形状をしていますが、この先端の半径rは0.01~0.02の範囲のものが一般的となっています。超微細な部品になりますので、この先端rを肉眼で確認することは難しいです。また、直径は0.5mmのものが一般的です。使用する製品によりピボットの長さは変わりますが、2.5mm~4mmのレンジが一般的になっています。可動コイル型のアナログメーターには片側のみ尖ったピボットが使用されますが、可動鉄片型のアナログメーターには両先端が尖った両頭ピボットを使用します。
【受石(石ねじ)】
受石はアナログメーター内の可動部分の摩擦を減少させるために使用される小さな宝石(ジュエルベアリング)のような部品になります。受石の主な役割は、メーターの指針や可動コイルなどの可動部分がピボット(回転軸)上で滑らかに動くことを保証する軸受けとして機能するものです。これにより、アナログメーターは微細な電気信号の変化にも正確に反応し、安定した測定値を提供することができます。受石の材質は宝石のサファイヤ、ルビー及びジルコニア(セラミック)が主となります。
【ヘアスプリング】
ヘアスプリングはうず巻ばね形状の部品になり、制御ばねとしてピボット計器に制御トルクを与えるとともに、可動部へ電流を導く導線としての役目も果たしています。ヘアスプリングは内側の端を計器可動部へ、外側の端を固定部へはんだ付けして使用します。アナログメーターの製造工程ではこの内端・外端のはんだ付け作業が非常に難しいものとなっており、超微細なはんだ付け技能が必要となります。この技能習得は容易なものではなく、その習熟に相応の時間を要す工程となっています。ヘアスプリングの材料はリン青銅のものが多く、ばね材の圧延に際しては、厚みを正確かつ一様にすることが重要になります。
■ トートバンド方式
・トートバンド方式(Taut Band)の概要
トートバンド計器は原理的にはピボット計器より古いもので、1950年以降主にドイツで実用計器として研究開発されたものになります。ドイツ語をとって、スパンバンド(Span Band)方式と呼ばれることもありますが、日本ではトートバンドという名称が使われることが一般的です。トートバンド方式は、可動コイルや指針を支える軸が、トートバンド(薄いメタルバンド)によって支持されます。このトートバンドは、コイルや指針が軸周りで回転する際の摩擦を極めて小さくすることができるため、非常に滑らかな動きが可能になります。トートバンドは、張力を利用してコイルや指針を中心位置に保持する役割も果たし、これにより精度良く、安定した測定が実現されます。このトートバンドは緩衝にも役立つもので、また可動コイルへ電流を通じる場合はその導線となる役割も兼ねています。
・トートバンド方式のメリットとデメリット
トートバンド方式では摩擦を最小限に抑えることができるため、非常に高い精度での測定が可能です。この摩擦が少ないため、微小な電流や電圧の変化にも敏感に反応し、正確な指示が得られます。よって、高感度な電気指示計器を作る場合はピボット方式ではなく、トートバンド方式が採用されます。また、摩擦が少ないことは部品の摩耗も少ないことを意味しますので、メーターの長寿命化に寄与します。他にも振動や衝撃が加わった後もピボット方式の計器に比べて指示誤差の増加が少なく、取り扱いや保守が容易といったことも挙げられます。
一方、トートバンド方式のデメリットとしては、トートバンド方式のアナログメーターで使用する機構は、製造や組み立てが比較的複雑になります。これにより 高精度な構造となるため、製造コストがピボット方式に比べて高くなる傾向があります。それに加え、トートバンド自体が白金(プラチナ)製で比較的高価な部品となる点もコスト高に影響します。他には、トートバンド自体、非常に繊細な部品なので、その取り扱いには注意が必要です。過度の力が加わると、バンドが損傷する可能性があり、バンドが損傷し、一度切れてしまうと、アナログメーターとして使用できなくなってしまうので、修理または交換が必要となります。他に、車両のように振動を受けながら指示を読む場合は指針が共振してしまうので、読み取りが難しくなる場合があります。
こういった特徴から、トートバンド方式は、主に高感度や高精度が求められるアナログメーター(電気指示計器)や現場測定器(テスター・絶縁抵抗計・クランプ等)に採用されています。また、この方式は、音響機器のVUメーターや特定の産業用途で見られる計器など、特定の専門的な用途にも適しています。一方で、車両や可動部重量の重い大型メーターには不向きになります。
・トートバンド方式のアナログメーターを支える重要構成部品
重要な構成部品としては、その名の通りトートバンドになります。それ以外の構成部品はピボット方式の部品と大きな違いはありません。トートバンドの素材は上述の通り、白金(プラチナ)になります。トートバンドは可動部を支えなければならないので、強さ、すなわち引張力の強さが大きいことが重要になり、これに適しているのが白金(プラチナ)になります。トートバンドの製造サプライヤーは日本とドイツでそれぞれ1社づつという状況で、ピボットの主要部品(ピボット・受石・ヘアスプリング)と同様に供給できるサプライヤーが限られている点が課題となっています。
■ まとめ
アナログメーターのピボット方式とトートバンド方式は、それぞれ異なるメリットとデメリットを持ちながらも、精密な電気測定に不可欠な技術です。これらの方式を理解し、適切に選択することで、さまざまな測定要求に応える高品質なアナログメーターの製造が可能になります。どちらの方式も、その機能性と信頼性を最大限に引き出すためには、高度な技術と精密な加工が必要とされます。扶桑計測器では、ピボット方式、トートバンド方式の両方を製造することができますので、お客様のニーズに応じて、ご相談頂ければと思います。