お問い合わせ

2024.06.05

お役立ち情報

アナログパネルメーター市場の成長要因と課題に関する分析

アナログメーター(電気指示計器 ※以下、アナログメーターで統一)市場は、デジタル化が進む昨今において、デジタルメーターやスマートメーターといった電子式が主流となる中、縮小傾向が続いてきましたが、視認性や判別性においてアナログはデジタル製品より優れた面があり、また磁力で動くため電源が不要といった特徴などから、ニッチな市場ではあるものの、そのニーズは依然として根強く、現在は需要があるものだけが残った市場となっています。

 アナログメーター(電気指示計器)の市場規模の目安として、一般社団法人日本電気計測器工業会(JEMIMA)の公表値では、日本メーカーの生産額推移は直近5年、下記の通りとなっています。コロナウィルスの影響による2020年・2021年の落ち込みはあったものの、おおよそ年間30億円規模程度の市場規模となっており、この傾向が続く状況となっています。

アナログメーターが社会に登場したのは100年以上前になりますが、今日に至るデジタル化の流れの中で市場は縮小傾向が続いてきたものの、一定のニーズというものは引き続き残っており、当面市場規模としては横ばいの状況が続くものと想定されます。また、日本市場では、台湾・中国・韓国製の安価な海外生産品も販売されており一定の脅威ではあるものの、アナログメーターは顧客の品質要求が非常に高いこともあり、品質面で一日の長がある日本メーカーが日本市場のシェアの殆どを占める状況となっています。世界最大のマーケットはアメリカになりますが、アメリカ市場は現地のローカルメーカー及びインド・台湾製の製品がシェアの多くを占めており、日本メーカーのシェアは相対的に低いものと推測されます。

 今回はこのアナログメーター市場(日本市場)について、競争戦略で有名なマイケル・ポーターの5フォース分析というフレームワーク用いて、考察していきたいと思います。マイケル・ポーターの5フォース分析は、業界の競争環境を理解し、その魅力を評価するフレームワークとして有名です。このモデルは、新規参入の脅威、代替品の脅威、買い手の交渉力、売り手の交渉力、および既存の競争者間の競争という5つの力に焦点を当て、それぞれを深く考察し、その市場魅力度を把握し、その中で自社はどういった戦略をとるべきかを考えていくものになります。

1. 新規参入の脅威
アナログメーター市場における新規参入の脅威は低いと考えられます。理由としては、市場への参入障壁が存在するためです。参入障壁の項目としては、技術的な専門知識、製造に必要な高度な技能、長い年月をかけて構築された顧客基盤・販路、並びにブランド認知度といったものがあります。特に、アナログメーターの製造技能の難度は非常に高く、モジュール型のデジタル製品とは異なり、微細なはんだ技術・経験に基づく細かい部品の組み合わせ・調整といったものが求められる、まさにすり合わせ製品の代表格といった品目になります。この技能を習得するためには一定の時間とそれぞれの企業が保有する製造ノウハウが重要になります。更に、一定の初期投資が必要であることも、新規参入者にとっての障壁となります。

 成長市場であれば、投資対効果も見込めますが、前述の通り、アナログメーター市場はデジタル化の波に押され、市場は縮小し、これ以上減ることはないものの、成長する市場ではありません。このような市場に新たに新規参入するメリットは小さいものと考えます。

2. 代替品の脅威
アナログメーター市場における代替品の脅威は今日においては低いものと考えられます。代替品として真っ先に想定されるデジタルメーターは、多くの場合、より高い精度、使いやすさ、追加機能を提供するため、強力な代替品となり、実際今では計測器のマジョリティを占めるものとなっています。しかし、2024年現在、デジタル化は概ね社会に浸透しきっており、もはや代替品とは言えない状況になっていると考えます。しかし、特定の産業用途や環境条件下では、アナログメーターがそのシンプルさや頑丈さにおいて優れているため、完全な置き換えは起こっておらず、一定のアナログニーズが残った状態となっています。

 このように、アナログメーターが引き続きどうしても必要な製品(配電盤、現場測定器、音響、航空・電車・船舶等々)のニーズだけが残っている状況につき、このデジタルという代替品に置き換わる力は以前ほどには強くないと考えられます。つまり、例えばの話、30年前であればこの代替品の脅威は非常に高かったと考えられますが、既に代替品が社会に浸透しきってしまった2024年現在においては、この代替品の脅威は低いと考えます。

3. 買い手の交渉力
アナログメーター市場における買い手の交渉力は高いと考えられます。市場には一定数のアナログメーターの供給者が存在するため、買い手は供給者間で価格やサービスを比較することができます。アナログメーターは差別化要素が多いものではなく、製品のデザインも似たものが多いので、価格、品質、供給者-顧客との関係といった要素の中で、買い手はどこから購入するかを決めることとなります。このような状況においては、買い手の交渉力は高いものになると考えます。

 しかしながら、特定の高精度のアプリケーション、カスタマイズされた製品、特殊技術で差別化されたような製品に関しては、供給者が限られているため、買い手の交渉力は弱くなります。実際にこのような製品はアナログメーター市場において多く存在します。まとめると、一般的な汎用品については、買い手の交渉力は高く、特殊な製品については低いということができます。

4. 売り手の交渉力
まず、アナログメーター市場における供給者の交渉力は2つに分かれます。アナログメーターを構成するプレス部品・切削部品は設備・金型があれば、どのメーカーでも製造できるもので、アナログメーターのメーカーは様々な供給者から購入する選択肢を持っています。

 その中で、価格・品質面で優れた供給者から購入することになりますので、この点においては、売り手(供給者)の交渉力は弱いものとなります。一方、特殊な部品、特に以前の記事でも紹介したピボット・受石・ヘアスプリング・トートバンドといったような部品は世界的にみても供給者が限られるため、その交渉力は非常に高いものとなります。これら部品はこの会社しかできないというものも多く、隠れざるグローバルニッチ企業も中には存在します。当然これらの企業の交渉力は非常に高いものとなります。

5. 既存の競争者間の競争
前述の通り、一般的な汎用アナログメーター(パネルメーター)については、買い手の交渉力が高い結果、市場における既存競争者間の競争は激しいものとなります。市場は成熟しており、その成長率は低いため、新規参入者は不在なものの、既存のプレイヤー間での市場シェアの奪い合いが発生しています。このため、価格競争、ブランド、製品の差別化、顧客サービスの向上など、競争優位性を確立するための戦略が重要になると考えます。その中でも価格が現状では最重要要素となっており、そのため収益性は低い品目になっているものと推察されます。

 一方、技術的に差別化された製品や特定の顧客・業界に特化してカスタマイズされた製品については競合が存在しないことも多く、その場合競争は殆ど存在しません。従い、収益性は非常に高いものとなります。

■まとめ
以上の5フォース分析の結果をまとめると、アナログメーター市場における新規参入の可能性は非常に低く、代替品となるデジタル製品は既に深く社会に浸透しきってしまっており、市場にはアナログのニーズがあるものだけが残ったという状況につき、もはや代替品の脅威は低いものになっていると考えます。これらの考察から、市場の競争環境は特に魅力的とは言えないものの、悪くはないと言えます。一方で、買い手と売り手の交渉力や既存競争者間の競争を見ると、差別化が難しい一般的なパネルメーターやプレス部品、切削部品といったアナログメーターの構成部品は競争が激しく、ポジションとしてはあまり良いものとは言えません。しかし、独自の部品を供給するサプライヤーや、特定の顧客向けにカスタマイズされた製品、高精度製品を提供する企業は、有利なポジションにあります。これにより、アナログメーター市場は、有利なポジションとそうでないポジションが明確に二極化しているといえます。

 当然ながら、このような競争・市場環境では、特殊な部品を製造するサプライヤーや差別化された製品を持つ企業が有利です。しかしながら、これらはこれまでの市場の動向に基づいた後付けの分析であり、既に確立された企業のポジションを急に変更するのは困難です。これまで差別化されていない一般的な製品を製造・販売してきた企業が、明日から特殊な製品を製造・販売するといっても、技術ノウハウ・顧客基盤・製造技術等々急に手に入れることは難しいことは明白です。また、企業文化の面からも汎用品マインドからカスタマイズマインドに変えることも難しいものと思われます。この個別企業の方向付け、今後自社がどうすべきかという経営戦略は、その企業個別のビジョンや経営方針に応じて異なるものと思いますが、例えば限られたアナログメーターという市場であくまで成長を目指すのであれば、競合他社やサプライヤーの買収・合併・提携などの戦略的オプションを通じて、より良い状況を創出することは可能であり、他にもアナログメーター市場の製造で培った技術を活かし、新しい事業や市場に多角化することも有効なオプションかもしれません。

 勿論、アナログメーターを手掛ける企業は中小企業が多く、株式市場での評価にさらされる上場企業は少ないので、あくまで現状維持でよいという選択肢も十分考えられます。繰り返しとなりますが、全ては個別企業ごとのビジョン・経営方針によるものとなりますが、こういった企業の方向性を考えるのに、このような分析は一定の役に立つものと思われます。